Y Combinatorから学ぶビジネスアイデアの算定方法

弊社hackjpnはYCombinator Startup School 2020に参加しています。毎回の授業がとても学びになり、ぜひとも皆さまに共有したいと思い、この記事を書くことにしました。 YCombinatorの要約記事はたくさんありますが、実際に参加して発信するものとしては一番丁寧にわかりやすく書いている自信があります。少しでも多くの皆さまに届きお役にたてると嬉しいです。

【はじめに】

このnoteは、シリコンバレー流・ビジネスアイデアを算定する方法をわかりやすく解説する分析ノートである。今回はY Combinatorが運営するスタートアップスクールの講義を元に文字化したものだ。

融資審査の通る確率が格段に上がるビジネスアイデアを作れるように、「YCの取り組み」「アイデアを成功に導く要素」「YCから投資を受け成功した企業例」について詳しく書かれている。

【この記事の対象者】

・新規事業従事者

・プロのエンジェル投資家になりたい方

・資金調達段階のスタートアップ

【この記事で得られること】

・スタートアップのアイデア評価方法

・調達企業に関する情報(過去にY Combinatorから資金調達を受けた企業のアイデア戦略、差別化できたポイントなど)

・シリコンバレーで通用するビジネスアイデアの特徴

【登壇者紹介】

Kevin Hale

YCのパートナー。Web開発に関する雑誌Treehouseの主要編集者として活躍。その後オンラインフォームを作成するサービス会社、Wufooを設立。2006年にYCから資金調達を受け、2011年にSurvey Monkeyに買収され、現在はYCのパートナーとして多くのスタートアップをサポートしている。

なぜスタートアップのアイデア評価は重要なのか

今回は、スタートアップのアイデアを評価する方法を紹介する。

これはスタートアップ養成スクールで得た多くのフィードバックに基づいて開発した新しいコンテンツである。そこで気付いたことは多くの人々の課題だ。

昨年の受講生のデータを見ると、昨年のカリキュラムでは「非常に高度で進んだ内容だ」という意見があった一方、「アイデアがない」または「アイデアが多すぎる」という理由で進むべき方向性を見失っている人が多くいた。なぜならそのアイデアに対して確信が持てていなかったからである。

アイデアを評価するスキルは様々な場面で非常に役立つ。

例えばピボットをする場合、それを行う必要性を見極めたり、また既にピボットしている場合でも、その事業がグロースするかどうかの判断にも役立つ。

もし既に会社を設立している場合は、事業の成長率に伸び悩んだり、あるいはどのようにして課題を改善していくかといった問題に直面することも起こりうる。これらのように、自分のスタートアップを評価することは、特に投資家がスタートアップのアイデアを評価する手法と同じように、非常に役立つスキルである。

投資家にとって魅力的なアイデアの特徴

これはY コンビネーターの神話と言われているが、YCは大きな勢力を持つ企業にのみ資金提供をすると人々は考えている。そしてYCに合格する唯一の方法は、多くの収益、または大量のユーザーをすでに獲得していることが条件であるとも考えられている。

そしてマスコミにも取り上げられ、認知を取りデモデイを迎えるといったことがよく聞かれる話であるが、実際にはアイデアだけで実際にYコンビネーターに合格した企業も数多い。

代表例は、健康保険などの人事管理を効率化するオンラインツールを提供するZenefitsである。非エンジニアの創設者パーカーは、コードの一つも書かずにYCにアイデアを売り込み合格した。その他には投稿型のニュースソーシャルサイトを運営する Redditも代表例として挙げられる。

厳密に言うと、Zenefitsは早急にピボットせざるを得なかったため、コードの1つも書いていなかった。実は今回の登壇者であるケビン・ヘールも同じ経緯でYCへ合格した。彼がWufooという会社を創業し第二回バッジに参加した際、コードの1つも書いていなかったにも関わらず、Y コンビネーター創設者の ポール・グラハムはアイデア一つで事業に投資をしてくれた。そのため現在ケビン氏はYCのパートナーとして、アイデア段階にいる企業に対して、常に全力を尽くしてサポートをしている。

ここでの私たちの取り組みは、スタートアップが自社のアイデアを説明し、考え抜く力を身に付けられるようにサポートをすることである。そしてそれを修正できた時点で、スタートアップのアイデアは信用されるようになる。多くの場合、創業者は自分たちのアイデアを語る際に視野が狭くなりがちである。

では、投資家がアイデアを気に入ってくれるかどうかを見極めるには、結論から言うと、グロースを約束することが答えである。Yコンビネーターにとって、スタートアップの定義は、急成長をすることを約束された会社であるからだ。

したがって、急成長する会社を築かないのであれば、それはスタートアップではなく単なるスモールビジネスである。そこに関しては何も問題はないが、投資家が興味を持つ会社は急成長を目指すスタートアップである。つまり、多くのユーザーを持ち高い評価を得られる企業を設立すれば、ベンチャーキャピタルや投資家にとって魅力的な会社となる。

YCのパートナーは、決してアイデアを否定しない

今回の登壇者であるケビン・ヘールは、YC創業者のポールグラハムからこの考えを学んだ。投資家の多くはアイデアに対して欠点を粗探しするかのようである。そして時にはいかに自分たちが賢いかを見せつけているようにも感じる。

しかしYCでは、アイデアの欠点を見つけるのではなく、どうしたらアイデアを成功に導くことができるかに重きを置いている。なぜなら、この賭けにおいてどのアイデアが勝つかはわからないからである。

その分YCは想像力を駆使し、時には楽観的に企業の提案したアイデアでいかに10億ドル規模の企業になるかを模索していく。そして優秀な投資家が彼らにフィードバックをするという流れである。このようにYCでは、アイデアを大きく成長していく様々な方法を考え、その根拠や急成長する会社を築くための正しい道のりをサポートしている。

スタートアップのアイデアは基本的には仮説である

つまりこれはいかにスタートアップが急成長できるかについての仮説だ。ここでスタートアップが取り組むべき課題は、投資家にその仮説を売り込みいかにグロースできるのかを理解してもらうことである。多くの場合、スタートアップは事業内容の様々なパートをとにかく正確に説明しようとしたり、あるいは過剰に説明するなどといった間違いを犯す。そのため、ここではこのミスについて解説していく。

通常のしっかりとした構造を持つ仮説があれば、何も形がない状態でも、企業が今後成功していく道のりや成功する根拠として示すべきことが明確になる。

スタートアップのアイデアは3つの要素で構成されている

ここではまず、投資家にピッチをする際に重要な3つの要素について解説していく。

1. 課題

1の「課題」では、初期条件を指す。ここでは企業が急成長する背景を説明する。

2.解決策

2の「解決策」は、基本的に、急成長をするために実行している試みを指す。

3.見通し

最後は「見通し」である。今の試みが最終的にどのようにして成功すると見越しているのかといった部分を企業は説明する必要がある。

これら3つの要素がピッチの場においてYCが重視するポイントである。次にこれらを解像度を上げて解説していく。

1. 課題

一つ目の「課題」において重要なポイントは、世の多くの人が持つ課題であり、早急に解決するべきであること。そして市場のグロースが見込めることが挙げられる。

また、課題解決に莫大な費用を要するアイデアも、解決できた場合のリターンが大きいため好まれる。これらが課題における共通した重要ポイントだ。そのため、自社のアイデアにこれらの特徴のうちの少なくとも1つ、または複数あるのが理想的である。

これらに全て当てはまる必要はないが、会社が成長していない場合や、人が課題に興味を示さない場合は、上記で挙げた特徴の一部が欠けている可能性がある。

特に最後の頻度に関しては非常に重要である。なぜならYCパートナーの多くは人々に解決の機会を何度ももたらす課題を好むからだ。これは、stanford大学の研究者であるB.J.Foggの理論とも関連があり、彼は以下の公式を提唱している。

誰かの習慣を変えようとするなら、次の3つが揃っていなければならない。それはモチベーション、能力、きっかけであり、それらは全て同時に発生する必要がある。」 

1つ目のモチベーションは、自分が持つ課題を何としてでも解決する必要がある」という動機である。

2つ目の能力はあなたのスタートアップそのものであり、3つ目のきっかけは、人々に自社のアイデアで彼らの課題を解決する必要があると気付かせるきっかけとなるものである。 

多くのスタートアップでは、自社のサービスを人々が利用してくれないことであったり、継続に繋がらないといったことが起こるが、それはなぜなら、スタートアップは人々が課題を抱えていることに気付き、プロダクトを利用してくれると勝手に期待しているからである。

そして多くの場合、ほとんどのスタートアップは、電子メール通知、トリガー、リマインダーなどといったアクションを顧客に十分に行わない。あるいは離脱したユーザーを適切なタイミングで取り戻す方法を理解していないことが多い。これらを把握できていない場合、再度プロダクトを利用してもらうことは非常に困難である。

そのためYCの考える理想の課題は、何百万人ものユーザーが対象となり、何百万人もの人々が抱えている課題である。それがチームメンバーが企業にコミットしたいという動機や、投資家が投資したいと思う理由にも繋がる。

YCが好む市場としては、具体的に年間20%で成長し課題が急速に拡大していく市場である。また、人々が今すぐにその解決策を必要とし、数十億ドルなどの莫大な費用、あるいは少なくともそれらすべてが合計数十億ドルまで実現可能な市場規模や、法改正などにより新しく解決する必要がある課題だと良い。

実際に、医療保険制度改革法可決後は非常に多くの医療系スタートアップが誕生し、突如として病院やクリニックが解決すべき課題が生まれる機会となった。また、YCは人々が1日に何度も解決する必要がある課題や、または1日に複数回利用するものも好む。この場合Googleは代表的な良い例であり、Slackも例として挙げられる。なぜならこれらは日々の生活で頻繁に利用するものだからである。

2.解決策

解決策に関してベストなアドバイスは、「今いるところから始めないこと」である。なぜなら、初めに解決策であるプロダクトを作り、後から課題を当てはめようとすると、結果として会社を成長させていくことが極めて困難になるからである。

YCではこれらのアイデアを「SISP」(Solution In Search of a Problem)と呼び、これは「課題を模索している解決策」という意味の頭文字を取ったものだ。

ここでエンジニアによく起こるSISPの事例を紹介する。あなたが新テクノロジーに興味を持ち、それがブロックチェーン であれ、これを通して何かを作りたいと考える。これは、スタートアップビジネスに取り組む大きな目的とはなるが、解決策から無理に課題を当てはめることになってしまう。会社がこのようなやり方で成長することは不可能ではないが、非常に非効率的だ。

そのため、 人々がどんな課題を抱えているかを理解し、その課題を解決するために必要なことは何でも利用すると考える方が、はるかに健全であり結果的に会社が成長しやすくなる。

またその他のSISPの解決策として、現在作り上げているアイデアや、スタートアップを立ち上げようと思った理由を考えてみることも鍵となる。例えばテクノロジーに興味を持ち、それを利用したいがために作ったサービスなのかであったり、初めに課題ありきで人々が抱える課題を解決するのかといった部分である。

3. 見通し(洞察)

最後に「見通し」を解説していく。ここではつまり、その解決策が成功する背景である。そしてこれは多くの企業が悩む部分でもある。なぜなら競合と差をつけられる優位な自社の強みを考え抜くことであったり、それが急成長に繋がる理由でない場合、投資家はスタートアップに価値を見出さないからである。

これらの「見通し」を持つことは非常に重要である。 もし課題を見つけてその解決策を提示したとしても、そこに理由が無ければ相手に評価はされない。そして理由無しでは、自社がどれだけこの課題を考え抜いているのか相手が判断できなくなる。

競合他社と大きく差別化する

では次にアイデアの構成要素を学んだ上で、あなたの会社が持つ、競合と差別化できる圧倒的な優位性について解説していく。ここでは5つに分類され、必ずしも企業はそれら全てを持っているわけではない。ただし優れた会社であれば、それら全てを備えている場合もある。多くのスタートアップは少なくとも1つの強みを持っているが、2、3つ持っているのがベストである。

1.見極め

まず1つ目は、創業者に圧倒的な優位性があるかの見極めである。

実際これらは全て数字と関連しているため、容易に把握できる。見分ける基準としては、この課題を解決できる世界の10人のうちの1人かどうか。また、あなたはその課題について卓越した知識を持っているかである。そしてYCが投資する創業者の99%は残念ながらそのカテゴリーに含まれない。

例えば、あなたがGoogleのプロダクトマネージャーと言っても、 Googleには多くのプロダクトマネージャーがいる。同じように、マイクロソフトのエンジニアであると言っても、マイクロソフトにはたくさんのエンジニアがいる。それ自体は素晴らしいことだが、他者との圧倒的な優位性には結びつかない。

逆に周りと差をつける優位性を持つ事例は、優れたバイオテクノロジーの研究で博士号を取得し、ある種の病気を治療するができる特別な特許を取得しているとすれば、創業者の圧倒的な優位性を持っていると言える。

2.年率20%の成長率

2つ目の強みは、その市場で年率20%成長しているかである。

は最も弱い優位性の1つとなる。その市場で展開することは素晴らしいが、加えて何か圧倒的な優位性が必要である。

適切な課題の領域と、課題解決を必要とする適切な顧客を見つけるからには、平均以上のことをすべきである。ここで繰り返して言うが、停滞または縮小している市場の場合、結果として自社の長期的な存続可能性を投資家が懸念することに繋がる。

3.プロダクト

3つ目の差を付ける部分はプロダクトである。

これは極めてシンプルだ。判断基準としては、自社のプロダクトが競合他社の10倍優れているかどうか。もしそうである場合、将来的に圧倒的な優位性を持つ可能性があり、この部分は非常に明確となるべきである。

もし競合との強みが明確であるならば、顧客が自社のプロダクトを見て、どの製品よりもはるかに10倍安く性能が良く優れているなどと言えるはずだ。もしそれが10倍でない場合、例えば2倍、3倍程度の違いの場合は、それはそれで素晴らしいことだが、投資家にとっては急成長してく会社として十分ではない。

4.ユーザー獲得

4つ目はユーザー獲得である。

多くのスタートアップはFacebook、Twitter、またはGoogleで大量の広告を出稿し、投資家に会いCAC(顧客獲得単価)やLTV(顧客生涯価値)を説明すれば、自社に持続可能な獲得モデルがあることを証明できると考えている。しかしここで理解すべきポイントは、広告によるユーザー獲得が自社の会社を成長させる唯一の方法であるなら、会社の成長は疑わしい。

なぜなら、実際に会社の人気が出て1億ドルの収益企業になった場合、その分野で多くの競合他社を引き付けることに繋がり、自社の優位性は失われるからである。食材宅配サービスを運営するBlueApronはこの良い例だ。

彼らのユーザー獲得はほとんど有料の広告によって行われたが、それらを利用し尽くして行き詰まってしまった。この際の解決策としては、費用のかからないユーザー獲得方法を見つけることである。

そしてここでYCが好む優秀な企業は、口コミで成長できる企業である。口コミは成長する手段において大きな割合を占める。特にスタートアップ創設時で資金がない場合は、有料広告を使わずに会社を成長させていく絶好の機会である。

初期段階ではスケールしないことをするようYCでは教えているが、 資金を必要としない部分で圧倒的な優位性を持つことは、ここで達成したいポイントである。

5.独占

そして最後の5つ目は独占である。

ここでの独占とはモノポリーゲーム上などでの独占といった意味を指すのではなく、会社が成長するにつれ、競合他社に打ち負かされにくくなっているか、また競合よりも強い会社となっているかを指す。

この良い例が、ネットワーク効果と市場を持つ企業である。 勝者総取りの傾向がある市場では、1つの企業が勝つ傾向がある。ネットワーク効果とはつまり、自社のネットワークが拡大するにつれて自社の強みやプロダクトの価値もそれに伴って高まるということである。これは全ての会社が持っているわけではないが、自社にとって大きな強みとなる。

優位性を持つ上で大事なこと

さらに加えて優位性を持つ上で重要なことは、信頼である。YCが投資先企業に持つ信頼には2種類ある。1つはその企業がそもそも成功する出発点は何か。2つ目は彼らが作りだそうとしているものは本当に作れるのか。これらが最低基準の信頼である。

ただそれらは最も重要なものではなく、信頼の一番の決め手は宝くじに当たりそうだと言うような奇跡的な感覚の信頼である。これらは時に非常にシンプルであり、もしエンジニアリングチームやB2B向けビジネス、またはエンタープライズスタートアップに携わっている場合、あなた自身がデフォルトを構築するべきである。

もしそれができない場合は、その事業が上手くいくこともなくYCが評価に時間を費やすこともない。大事なことは、創業者がいかに上手くセールスを行い、顧客を納得させ、販売プロセスを進めることができるかであり、それが成功の決め手となる。

そしてYCが求めるのは、創業者がそれらを乗り越え実現させなければならないと理解していることを示す証拠である。そのため、そのような会社に対するYCの役割は、プロダクトに関して何かを助言するのではなく、その事業が信頼されるべき証明を手伝う。その証明が明白になれば、成功していく企業だと周りから思われるだろう。

YCから投資を受け成功した企業例

ここで成功した企業の事例をいくつか見ていく。 

YCの持つ圧倒的な優位性

初めにYCをスタートアップの良い例とする。最初の課題としては、YCの場合創業者がベンチャーキャピタルのネットワークを使わずに資金を調達することが困難であったことが課題である。

そこでYC創業者のポール・グラハムは、解決策として投資先会社を公募とし、応募者はYCにアイデアを語り資金を得る仕組みを作った。この際、YCは競合他社と比べて多くの圧倒的な優位性を持っている。

1つ目は、創業者たちが実に優秀であるということである。具体的に、創業者のポール・グラハンはプログラミングコードであるLispやRTMに関するテキストを執筆していた他、最初のワームを書いた非常に優秀なプログラマーであった。

そして彼らは最初のSaaS会社であるViawebを設立し、後にYahooに売却した。いわば彼らはテクノロジーを評価するエキスパートであり、かつプロセス全体のスタートアップを理解するエキスパートでもあった。

2つ目のYCの圧倒的な強みは市場である。彼らは将来の数十億ドル規模の企業はテクノロジー企業になると予測していた。特に当時のテック企業の追い風となったのは、ムーアの法則によりソフトウェア会社の設立がますます安価になり、創業者のポール氏らはより大きな賭けに出ることができた。

3つ目のVCが優位であった点はプロダクトである。VCの仕組みとしては、創業者は学費を支払い、3か月間のコースを受講しアドバイスを受けながら、比較的少額の資金で事業に取り組む。そして最終的には、様々な投資家にピッチを行う。このアイデアは、VCとのネットワークを持たない創業者にとっては非常に価値のあるプロダクトであり、多くの人の心を惹きつけ、強い志を持つ者が集まった。

4つ目はユーザー獲得である。 ポール・グラハンがYC創立した当時、適切なユーザーを集めることができたのは、彼が当時非常に多くのリーチ、つまり支持者を集めていたからである。彼は創業時にウェブ上でエッセイも執筆しており、ターゲット層のユーザーを多く持っていた。そうすることで、比較的安価にユーザーを獲得することができた。

そして最後の5つ目の圧倒的な優位性は、YC創設時に彼も気付いていなかったことだが、YC卒業生のネットワークが拡大するにつれ、YCはより強力で価値のあるものになったということだ。その結果、YCが投資した企業は2000社を超え、4,000人の創業者を抱える企業となった。卒業生の中には、世界有数の企業のCEOとなったものもいる。そして時価総額10億ドル以上の企業が15社以上、1億ドル以上の企業が93社あり、YCの時価総額は1000億ドルを超える。

Wufooの圧倒的な優位性

次に成功した企業事例2つ目は、今回の登壇者であるケビン・ヘールが設立したスタートアップ、Wufooである。

Wufooではオンラインフォームを作成するサービスを提供している。ここでの課題は、ウェブサイトを作成する場合はコードの書き方を学ぶか、またはプログラマーを雇う必要があった。

そこで解決策として、見たままのものが作成できる(WYSIWYG)、つまりエンジニアでなくても作成可能なドラッグ&ドロップ型のビジュアルエディターを作れるプロダクトを作った。

次に圧倒的に競合他社より優れていた点は市場である。おかしな話だが、初期の頃はその市場で獲得できる最大の市場規模であるTAMを算出するように求められたが、創業者のケビン氏は全てのWebサイトにフォームが必要であり、フォームを必要としないウェブサイトはないことから、市場規模は大きいと予測していた。

結果、Wufooは急成長を遂げ競争と比べてプロダクトが10倍速い作業ができることが簡単に証明された。なぜなら、それはドラッグ&ドロップが手早く行え、それが視覚的に確認できるプロダクトであったからだ。

そして、Wufooはフリーミアムモデルを使用していたため、フォームのカスタム度合いが非常に高く、従来のルートよりも100倍速いと言える。そして結果プログラマーを非常に安価で雇うことが可能となる。これらが圧倒的な優位性となった。

 そしてWufooはブログ開設やユーザー獲得にも着目していった。まずブログに登録した 10万人の開発者をはじめ、1年にわたり支持者を増やした後、彼らにプロダクトを公開し、YCに応募した。YCへの信頼につながる証明としては、支持者を集めたことやその他がしっかり揃っていることを証明した。

そして、その他のユーザー獲得モデルとしては、ユーザーの作ったフォームは一般のWebサイトに埋め込むことができたため、その結果ユーザーがWufooのフォームとソフトウェアを広めてくれる形となり、資金を必要とせずにセールスを行えた。

その結果、Wufooのプロダクトは、あらゆる業界、市場、業種で使用された。そして数多くの一流企業で利用されることとなり、驚くことにこれらを運営していたのはごく少人数のチームであった。

実際にWufooが買収された時、他社と比較すると傑出した異常値を出していた。それは一般的なスタートアップの場合、イグジット前に約2,500万ドルを調達し、上記のスライドが平均的収益である。一方Wufooの場合、活動期間中に調達した資金はわずか118,000ドルで、利益は30,000%を超えた。

【最後に】

このnoteはスタートアップのアイデア構築、戦略、プロセスという観点で、YCの主催するスタートアップスクールの講義を元にアイデアの算定方法を解説してきた。実際YCに合格し投資を受けられる企業はごく僅かであり、その合格率は3%とハーバードの合格率よりも低い。そんな中YCに合格し、アイデアを考え抜き投資を受けたAirbnbやDropboxなどをはじめとする企業が、今や一流企業となり世界中の人々の課題を日々解決している。今度は皆さんがこのnoteを参考に、実際に課題、解決策、自社の圧倒的な優位性に対する答えを見出し、事業の成長スピードを高めてもらいたい。

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