株式会社DiLuca代表 高村松世氏
医療業界が取り組むべき「雇用環境」の課題とは

株式会社DiLuca代表 高村松世氏

今回は医療機関の安定的経営基盤構築をサポートする株式会社DiLuca代表の高村氏に、医療業界が取り組むべき課題について独占取材した。

30年の病院勤務を通して見えた医療事務スタッフの雇用環境の実態と、変革を推進する女性活躍推進法について、医療コンサルタントの高村氏に解決の糸口を探っていく。

医療事務スタッフの離職率が高い背景

「医療事務スタッフが現場離れしてしまう要因は、大きく分けて2つあります」

30年の病院勤務経験を持つ株式会社DiLuca代表の高村氏は、こう語る。その理由の一つは人間関係だ。病院やクリニック全体では、医師と放射線技師以外は女性スタッフが大半を占める。特に看護師は9割が女性。”女性が多い職場は人間関係に悩まされやすい” と世間ではよく口にされているが、医療事務でも同じ傾向にある。

二つ目の要因は激務だ。コロナ禍で医療業界は逼迫している中、日々医療事務スタッフは膨大な量の仕事をこなす。特に、医療事務は専門知識が求められる職種だ。たとえ医療情報学部を卒業し医療事務の資格を持った人材であっても、就職後すぐに即戦力として現場で医師と会話をすることは容易ではない。医療事務スタッフとして一人前になるには通常2, 3年を要すると言われている。

それがゆえに一人前に達するまでに辞めてしまう人材も少なくない。また、病院やクリニックでは派遣や委託職員といった雇用形態の割合が多く、医療業界全体では人材の教育が十分に行き渡っていないことが課題として浮き彫りになっている。

こういった人材は主に委託業者を通して雇用されるため、病院側としては委託業者に人材の教育を求めるが、委託業者にとっても派遣人材への教育コストがかけにくい現状にある。

無論、医療安全や個人情報保護に関する研修や、医療法人として施設単位で教育するべきことは医療事務スタッフも学んでいる。しかし、基礎となる教育は行われず業務フローのみを学ぶことも多いのが現実だ。例えば保険証の提示に関しても、「なぜ保険証を窓口で提出する必要があるのか」といった基礎的な部分に対して、適切な情報提供を出来る医療スタッフは多くはないと高村氏は語る。

こういった女性が多い職場環境でのハードワークと、求められる専門性に対する不十分な教育が離職率に繋がっているのだ。

女性活躍推進法を通して変革した医療業界と、立ち塞がる課題

2019年、女性活躍推進法の改正案が可決され、女性の職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備が見直された。「女性活躍推進法」とは、女性が活躍しやすい社会の実現を目指して作成された法律である。就業を希望しながらも、出産や育児などの事情が重なって就業できていない女性が多いことを背景に、2016年に施行された。

こういった動きが高まる中、医療業界でも育児休暇後の職場復帰に対して、周りの理解度も高まっている。また女性が多い職場環境でもあるため、女性活躍推進法によって院内での保育施設設置や、子育てを行う女性スタッフの勤務内容を優遇する動きも出てきている。

しかし医療事務の業界は構造上正規の職員が少ないため、恩恵をまだまだ受けられないでいるケースも多い。病院やクリニックによっては、保育施設が院内に完備されている場合であっても、女性医師や看護師以外のスタッフはそれらを利用できないケースもある 。

医療事務スタッフにとっては、職場の子育て支援も手薄で給料も低い。求人統計データによると、医療事務の仕事の平均年収は約294万円。国税庁の調査に基づいた日本の平均年収と比較すると低い傾向にある。さらに教育も十分に受けられず、日々激務に追われ仕事に対しての大義名分も薄れていく一方である。

“医療業界に働き方改革を” DiLucaが見出す勝ち筋とは

今後の医療業界に変革を起こすカギを握るのは、しっかりとした教育体制にあると高村氏は考える。

「医療業界に従事する事務スタッフは、人々に対する貢献性やホスピタリティは一般職の方々よりも強いと思っています。お金ではないやりがいや、自分の存在意義に対して患者さんに感謝していただく気持ちがあるからこそ、この仕事を選ぶのではないでしょうか。そのため、医療事務スタッフに教育をしっかり行い、承認をする組織作りが今後必要です」

高村氏自身も、30年間医療事務スタッフとしてのキャリアを築いてきた中で、人材教育の大切さを幾度と体験している。そのため当時は採用の入口から医療事務スタッフと真摯に向き合い、学習の機会を提供してきた。その結果、通常の業務内容の説明だけではなく、その業務を行う必要がある背景についても教育を行うことで、新人スタッフは準備期間をしっかり設けて業務にあたることが出来た。

こういった徹底した教育で、実際に自治体病院では2年で5億の収支改善を果たし、その後ヘッドハンティングで入った病院も純利益NO.1。異例の成果を挙げてキャリアを積んでいった高村氏は、現在の医療業界が抱える女性の雇用環境に対する課題に対して、医療事務スタッフ向け教育プラットフォームを構想している。

「医療事務の方が今現在どんな状況であっても、求めている職場に応じて自分に必要なコンテンツが提供される場を作りたいと考えています。例えば医療事務に興味がある方、または今現在クリニックで勤務しているけどもスキルを積んで病院で働いてみたい方、もしくは今病院で働いているけれども違う現場で挑戦したいと思っている方は多いと思います。そこに対して、職場の適性検査や自身の能力値診断を行い、自分に必要となる学習プログラムがAIによって構築され、コンテンツに沿って学んでいく学習プラットフォームを提供したいと考えています」

同サービスはアニメーション形式で5分間の研修動画を視聴する仕組みだ。

例えば受付対応の流れなど、医療事務スタッフの各業務内容を短時間で簡単に学ぶことが出来る。また、会員はバーチャル空間で交流することも可能だ。こうすることで、全国の医療事務スタッフ同士で出会いが生まれ、仕事のモチベーションにも繋がる。そしてコンテンツを通して学ぶことで、就職先の現場の働き方が可視化される。

例えば大学病院の経営に携わりたい場合、大学病院の経営に求められるスキルと1日のタイムスケジュールを理解することで、現場の雰囲気を事前に掴むことが出来る。そのため就職後のミスマッチも防ぐ。

さらに、コンテンツ学習を終えた会員には適性検査を行う。そして希望する職場の接遇やマナー教育を行い、就職先を紹介していく流れだ。その後も「面接サポートや就職後の悩みを相談できる場を提供していきたい」と高村氏は考える。

医療業界の働き方を変革するためには、根本的な教育から就職後のサポート体制を整えることに勝筋があると高村氏は言う。超高齢化社会に突入した日本において、医療事務スタッフの活躍はより一層求められる。内閣府の調査によると、2040年には高齢化率が35.3%、つまり3人に1人が高齢者になると予測されている。

また、実際に2008年に診療報酬制度で定義されたことを機に、医師事務作業補助者という新しい職種も定着してきている。医療事務作業補助者の仕事内容は主に医師の代行として、診断書の文書作成や電子カルテへの入力を行う。

しかし医師事務作業補助者が医師に満足度の高いサポートを行えているわけではない。今後マーケットとしても拡大を続ける医療業界。「今後より即戦力となる人材が増えれば、現在の医療事務スタッフの働き方は大いに変革できる」と高村氏は見据える。

医療事務スタッフが日本の医療を救う

医療事務スタッフの魅力はどこに秘められているのか。その問いに対して高村氏はこう述べる。

「どこまでもクリエイティブに仕事できることです。医師や看護師さんは国家資格者ですから、彼らと何の国家資格も持たない医療事務スタッフでも、チームで対等に仕事ができます。自分が即戦力として現場で動けるようになると、医師とレベルの高い会話も出来ますし、一緒に経営を改善していくことに携われます。その時に本当のやりがいが見えてくると思いますし、「病院の経営を私たちが変えていく」意識を持っていただけたら嬉しいです」

近年、日本では深刻な医師不足が続いている。超高齢化社会により医療業界のマーケットも拡大していく一方で、医師不足は医療崩壊の大きな要因のひとつともなっている。同様に、看護師不足も医療界が長年抱えている課題であり、病院の経営を左右する程の大きな問題だ。

それゆえ、医療事務スタッフに求められる即戦力は今後も増していくだろう。国も女性活躍推進法を改正し、新たに医療事務作業補助者という職種も生まれている。女性活躍推進法は医療業界こそ取り組むべき課題だ。この動きは明日の日本の医療を変えるかもしれない。

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