合同会社OFFICE Waon輪音 CEO
三星 裕里香氏
北海道札幌市出身。2013年、札幌大谷大学卒業後に「音楽教室わおん」を開業。生徒数4名からスタートし、1年間で口コミのみで50名の教室となる。2022年には、ママ向け音楽事業の
「HugHug♡ほっぺ」も設立。現在は「合同会社OFFICE Waon 輪音 」として、音楽教室わおんとHugHug♡ほっぺの
事業拡大を図ると共に、国内初の音楽動画学習アプリ「Smiuse(スミューズ)」の開発を進めている。
<文・hackjpn 吉田 浩>
<写真・hackjpn 橘 敏輝氏>
札幌市を拠点に、ピアノ講師、リトミック講師 音楽療法の実践、自身による演奏と、音楽に関わる様々な活動に携わっている三星裕里香氏。
現在は「趣味特技は一生の宝」の理念を掲げて
国内初の音楽動画学習アプリ「Smiuse(スミューズ)」の開発に取り組み、12月22日のリリースを目指している。
Smiuseには、これまでの活動を通じてあらゆる属性の人々と関わって確立した独自メソッドを反映させ、唯一無二のアプリに仕上げる考えだ。ピアノ、弦楽器、管楽器、打楽器、リトミックと、利用者のレベルに合わせた講座がサブスクで受け放題。
初心者から上級者まで、無理なく楽しく音楽を一生モノの趣味として身に付けるためのノウハウを凝縮させる。
もともとは個人のピアノ教室として4名の生徒からスタートし、1年間で50人もの生徒を抱えるまでなった三星氏。
音楽教室としては十分成功しているにもかかわらず、日本全国、さらには世界を視野に展開しようとしている理由は何なのか。事業拡大の先にどんな世界の実現を目指しているのか。
独占取材で明らかにする。
ピアノの魅力に引き込まれ教室を開く
三星氏がピアノと出会ったのは5歳の時。
両親はどちらかと言えば体育会系で、音楽との関りが特段深いわけではなかったが、習い事の1つとして始めたのがきっかけだ。
指導してくれたのは個人でピアノ教室を開いていた近所の主婦。子育てをしながら格好良く演奏する姿に初回のレッスンから引きこまれた。
初めての師匠は、幼い少女にとって憧れの存在となり、いつか自分も先生のようになりたいと思うようになった。
悲しい時には悲しい音を出せて、楽しい時には楽しい音が出せる。そして練習すればするほど上達が実感できる。
そんなシンプルなピアノの魅力にハマったのが、事業家としての原点だ。
高校時代に学校でいじめに遭い、不登校になった時期に救ってくれたのもピアノだった。
自宅に引きこもる間、いつか弾きたいと考えていた曲を集中して練習し、わずか数日で弾けるようになったことで前向きな気持ちを取り戻せた。
「趣味を持つことがこれほどまでに人生を豊かにし、命をも救う手段になり得る」――
音楽で人を救いたいという気持ちが湧いた三星氏は、ピアノ講師の夢に加え、音楽療法士の資格取得も目指すようになる。
北海道で唯一の4年制音楽系大学である札幌大谷大学のピアノコースを卒業後、すぐに「音楽教室わおん」を開業した。
ピアノ講師、音楽療法士、そして自身の演奏活動など、総合的に音楽と関わりたいと思っていたため、組織に所属する選択肢は最初からなかった。
幼少期に母親業をこなしながらピアノの魅力を教えてくれた師匠のイメージもあり、キャリアと子育ての両立のためには、組織に所属するより自分で基盤を築いておきたいと考えたからだ。
口コミだけで生徒50人を獲得、妊産婦への音楽療法も手掛ける
当初4名の生徒からスタートした音楽教室は、口コミであっという間に評判が広がり、
1年後には50名もの生徒を指導するようになった。一個人のピアノ教室としては異例の人気である。
「お子様を通わせているお母様方からは、一人ひとりに合わせたレッスンが良かったと伺っています。生徒さんたちの性格や日々のスケジュールなど、個別の事情に寄り添った指導が評価されたようです」と、三星氏は言う。
音楽を通じて、働く女性たちのサポートにも積極的に取り組むようになる。
フルタイムワーカーが増えるなど母親たちの働き方が変わる中、子どもたちの付き添いが出来なかったり、キャリアと育児の両立に悩んだりするケースが増加。
そこで三星氏は自身の妊娠・出産の経験や音楽療法士としての知見を活かし、2022年には妊産婦の音楽療法、発達相談、母親向け講座などを手掛ける「HugHug♡ほっぺ」を設立し、活動範囲を広げていった。
ただ、事業拡大に伴う問題もあった。
ただでさえ多くの生徒をマンツーマンで指導していたのに加え、自身の子育ても重なり、従来と同じ働き方ではタイムマネージメントが厳しくなっていった。
「自分と同じことができる人材を増やし、全国にオリジナルメソッドを広めたい」
そんな思いが、音楽動画学習アプリの開発へと結びついていく。
初心者でもショパンが弾けるようになるオリジナルメソッド
自分と同レベルのスキルを持つ認定講師を育成し、フランチャイズのような形で全国展開しようと考えたものの、アプリ開発については当初全く頭になかったという。
折しも世間はコロナ禍で、自宅に引きこもる人や鬱病や不登校に陥る人々が増えていた。
そうした人々にもメソッドを届け、趣味を持つことのすばらしさを伝えるには、最初の一歩を踏み出してもらう仕掛けが必要だった。
メソッドを広めるためのツールの必要性を認識し、本格的に市場調査を開始。
そこで分かったのは、趣味に関する動画学習アプリや音楽学習アプリは既にあるものの、理論をしっかり学習しながら、利用者の希望に沿って細かな音楽教育や音楽療法のメニューまで設定できるようなサービスが存在しないことだった。
「誰もやっていないことをやってみたい」という気持ちが強烈に沸き上がっていった。
アプリ開発に当たっては、これまで教室運営で様々な生徒と向き合ってきた経験が大いに役立った。
生徒の中から複数のペルソナを設定し、子ども向けと大人向けでそれぞれ初級、中級、上級とコースを細分化。三星氏自身が黒板やノートを使ったり、実際に演奏しながら語り掛けたりする内容となっている。
オリジナルメソッドによって習い始めから音楽理論が知らず知らずのうちに身に付く点が、他の音楽動画や教本などとの大きな違いだ。
楽譜を抵抗なく読めるようになることで、ピアノだけでなく管楽器、弦楽器、打楽器などさまざまな楽器を楽しめるようになるのも特徴だ。
「たとえ初級から始めても、楽譜の難解さで有名なショパンも弾けるようになりますし、上級者もさらに目標を高く持って取り組めるようになるのが、この学習アプリの良さです」
と三星氏は説明する。
趣味の素晴らしさを世界中に伝えたい
音楽動画学習アプリ「Smiuse」のリリース予定は今年12月22日。有料プランとさらに個別の利用者に特化したプレミアムプランを用意し、1年後には5万ダウンロードを目指す。
今後はアプリ開発と共に、当初から計画していた認定講師の育成にも取り組んでいく方針だ。
音楽教室わおんを全国に設立し、オリジナルメソッドを広めていくための体制を整えていく。
また、個人の利用者だけでなく、医療・福祉・介護現場、自治体などにアプリを導入してもらい、音楽療法が必要な人々に広く届けられるようにもしたいと三星氏は語る。
「ハンデキャップを持つ人や、生きづらさを抱えて趣味を持つことへのハードルが高い人たちにも使ってほしいです。不要不急の趣味に時間を使うのに引け目を感じる風潮もありますが、コロナ禍が落ち着いた今だからこそ趣味を持つことの素晴らしさを伝えられたら、と考えています」
さらには、発展途上国を中心に海外への展開も視野に入れている。
途上国には伝統的な楽器が数多くあるが、たとえば有名な国際音楽コンクールにエントリーしてくるのは先進国の限られた層ばかりなのが現状。
学習機会を提供することでこうした状況を変え、趣味によって豊かな人生を送る人々を世界中に増やすのが目標だ。
Smiuseの構想は机上の理論ではなく、幼少期から今に至るまでの自身の体験、そして多種多様な生徒たちと丁寧に接してきたからこそ生まれた。三星氏の取り組みが「趣味」というものの価値を飛躍的に高めることに期待したい。