Y Combinatorから学ぶMVPの構築方法

弊社hackjpnはYCombinator Startup School 2020に参加しています。毎回の授業がとても学びになり、ぜひとも皆さまに共有したいと思い、この記事を書くことにしました。 YCombinatorの要約記事はたくさんありますが、実際に参加して発信するものとしては一番丁寧にわかりやすく書いている自信があります。少しでも多くの皆さまに届きお役にたてると嬉しいです。

【はじめに】

このnoteは、シリコンバレー流・MVPの構築方法を分かりやすく解説する分析ノートである。今回はY Combinatorのパートナーであるマイケル・セイベル氏の講義を元に文字化したものだ。

プレローンチ段階のスタートアップが初期ユーザーを獲得できるMVPを作れるように、「MVPの構築戦略」「プレローンチ期にすべきこと」「MVPを迅速に作り出すハック」について詳しく書かれている。

【このnoteの対象者】

・プレローンチ段階のスタートアップ

・MVPを迅速に作り出し事業をドライブさせたい方

・初期顧客を獲得したい方

【このnoteで得られるスキル】

・MVPの構築方法

・企業価値300億ドル企業のMVP情報

・MVPを迅速に作り出すハック術

【登壇者紹介】

Michael Seibel

Y CombinatorのCEO兼パートナー。過去にはYCにてJustin.tv/TwitchとSocialcamのスタートアップ事業を行っており、現在はアクセラレーターの運営サポートに尽力している。

今回はMVP(Minimum Viable Products)と言われる「実用最小限の製品」について解説していく。

MVPとは価値を見極めるもの

MVPは非常にシンプルなプロダクトである。

つまりターゲットとする初期ユーザーにMVPを提供し、何らかの価値をもたらすかどうかを見極めるのである。これがMVPの本質であり、いたってシンプルだ。

もしアイデアに行き詰まっていたり、解決したい課題を見つけ出したい際は、MVPを構築する前にユーザーの声を聞くことが大事だ。これは何年もかけてリサーチを行ったり、その業界で10年も在籍しなければいけないといったことではない。もし自身がユーザーであった場合、自社のプロダクトに価値があるかどうかを把握できるため尚更良い。

初期ユーザーを獲得するには

よく「どうしたら初期ユーザーを獲得できるか」といった不思議な質問を受けることがあるが、創業者は理論的に誰かが既に持っている課題を解決しようと決めているはずだ。そのため初期ユーザーを獲得するには、その課題を抱える人と話すことである。そしてそれが自分自身であれば尚更容易だ。もし仮想のユーザーに対してプロダクトを作り上げているのならば、それはいささか疑問である。

ローンチ前のスタートアップのゴール

プレローンチ段階にいるスタートアップのゴールは極めてシンプルである。

ステップ1. 素早くローンチする。たとえそれが不完全なプロダクトであっても。

これは設立当初からのYC精神の一つであり、10年経った今でも受け継がれている優れたアドバイスだ。

ステップ2初期顧客を獲得する

これは言うまでもなくスタートアップがやるべきことであり、自社のプロダクトを利用してくれるユーザーを獲得することが大切である。この場合、「いかに全員にプロダクトを利用してもらうか」といったビジョンを持つ必要は無く、プロダクトに価値があるかどうかを検討しているユーザーを獲得することが重要である。


驚くことにこれまでに多くの創業者が、自社プロダクトを実際に利用するユーザーを見つけられずに失敗してきた。そのため初期顧客を獲得することは非常に重要である。

ステップ3. ユーザーの声を聞き、フィードバックを得る。これもよくある間違いだが、多くの創業者は自分が作り上げたいプロダクトのアイデアを頭に描き、それが完全に出来上がっていない場合は、初期の不可欠なプロダクトに対してフィードバックをもらうことは意味がないと思っている。

例えば、完成品が出来上がるまで3年、費用は1千万ドル、そのためまだ不完全なプロダクトに対するフィードバックは無意味であるなどと多くの創業者は考える。

しかし実際は、完成品は頭に入れておくべき素晴らしいアイデアだが、そこに関しては柔軟であるべきである。なぜなら、自社が作り上げたいプロダクトの完成品が、顧客の求めるものとは異なる可能性があるからだ。

そのため、解決しようとしている課題や顧客を確固として維持し、作り上げている解決策に関しては柔軟になることが大切である。そして何よりも反復(イテレーション)することが重要であり、ここで反復とピボットは区別したい部分だ。

鍵を握るのは反復

反復とはつまり、課題を解決できるまで解決策を練り直し改良を重ねることである。

ここからは反復の例を紹介する。

多くの創業者はプロダクトの作り方が明確になると、夢中になって取り組む。

そして、一部のユーザーにプロダクトが受け入れられない場合、そのプロダクトを利用して他にどのような課題を解決できるかを考える。

例えばドライバーが実はネジ止めに向いていない道具だとしたら、料理や掃除などその他のシーンで利用できないかと考える。

しかしここで解決すべき課題は、ネジ止めをすることだ。ユーザーが機械工の場合、彼らの課題を解決できるまで向き合い、ドライバーを改良する必要がある。つまり、ここで鍵となるのは反復である。

シンプルなMVPをつくる

大半の場合、創業者は無駄のないMVPを作り上げるべきである。つまり数ヶ月ではなく数週間でMVPを作る必要がある。これはソフトウェアも含まれる場合もあり、実際のところランディングページとスプレッドシートのみで始めたスタートアップも存在する。

このように多くのスタートアップは迅速にスタートできる。反復では極めて限定的な機能にし、初期ユーザーのニーズが凝縮された、シンプルな設定にする必要がある。

多くの場合創業者は全ユーザー、そして潜在ユーザーの課題を解決したがる。しかし実際には少数の初期ユーザーとニーズが大きい課題に着目し、その他のことに関しては後に対応していくのが良い。

全ユーザーを念頭に置いたビジョンを持つべきではあるが、MVPに関しては非常に小規模なものに留めるべきだ。これらは全て反復の基礎であり、出発点である。MVPにおいて特別な方法を試す必要はなく、まず始めることが大事だ。

企業価値300億ドル企業のMVP例

次にMVPの代表例を紹介する。

これはAirbnbが2008年に公開していた初期のランディングページである。ここで興味深いのは、支払い機能が含まれていなかったことだ。当時はAirbnbで宿泊場所を見つけた際、代金をホストに直接支払わなければいけなかった。言うまでもなくそれは非常に大きな問題であったが、Airbnbはこのように支払い機能が無い状態からスタートした。

更に当初はマップビュー機能も付いていなかったため、滞在先場所をサイトの地図上で確認することも出来なかった。そしてサイトの全コードはアルバイトが書いていた。

現在は企業価値300億ドルを達成しているAirbnbでさえ、立ち上げ当初から完璧ではなかった。

次の例はTwitchだ。これは今回の講師であるマイケル・セイベル氏が共同創業した会社である。TwitchはオンラインのTV番組 Justin.tvとしてローンチしたが、当初はビデオとチャット機能のみであった。そしてビデオの中身は創業者であるJustinの生活に密着するチャンネル1つのみであったため、それが気に入らない場合はサイトを離れるしかなかった。

加えて動画の画質はかなり荒かった。これは今となっては笑い話だが、とある創業者から「アパートの中でビデオを取られることはおかしくないか?機密書類などが写ってしまうのではないか?」と聞かれたことがあるが、かろうじて顔が認識できる程度の画像解析度であったため、書類など見えなかった。

そして現在ではゲーマーのビデオゲーム配信のプラットフォームになっているが、当時はビデオゲームのチャンネルすら存在していなかった。

その後創業者はビデオゲームに焦点を当てると決意し、遂にそれが登場してから現在のTwitchはより複雑な仕組みとなっている。そしてここから言えることは、迅速にスタートを切ることは可能だということである。

最後に紹介する例は決済サービスを提供するStripeだ。元々は/dev/paymentsという社名であったが、現在は覚えやすいようにStripeへ改名している。

立ち上げ初日は銀行との取引は無く、サービス機能もほぼ付いていなかった。しかし何よりも特別であった点は、ユーザーがStripeを利用する際に創業者自らがオフィスを訪問し、サポートに徹したということである。

その背景としては、創業者らがユーザー獲得に必死であり、ユーザーがバグを見つける前に自分たちでバグを見つける方がスムーズであったことが挙げられる。

ここまでに代表的な3社のMVP構築方法を紹介してきた。現在はサービスを世界中に急拡大させているこのような一流企業でさえも、創業当時はかなり不完全な状態からスタートを切っている。

ヘビーMVPを作るべき条件

ごく稀にヘビーMVP(充実した機能を持つMVP)を作る必要がある。

その条件としては、自社が保険や銀行、またはドローンなどの厳格な規制下に置かれる産業でローンチが困難である場合だ。このとき、まず初めに数々の規制当局の許可を得る必要がある。

その他にもロケット開発などハードテックに携わっている場合は、数週間でロケットを作ることは困難だ。バイオテックの場合でも、数週間で抗がん剤治療薬を開発することは困難である。

月へのロケット打ち上げの場合はその他の必要事項を満たしたとしても、数週間で地球にトンネルを掘り、車に代わる高速車両を開発することは困難を極める。

しかしこれらのような状況下でも、MVPは自社の説明文を添えたシンプルなウェブサイトから始めることができる。そのMVPは、商談をする際の参考資料として役に立ち、初期サイトは数日で作ることができる。そのため、場合によってはヘビーMVPの方が通常のMVPよりも迅速に作ることができる。

ローンチでやるべきこと

ここからはローンチについて解説していく。

なぜなら多くの創業者はローンチに対して誤解をしているからだ。スタートアップは大企業がローンチする様子を見て、スタートアップもそのようにするものであると思い込み、スタートアップと大企業を同様に捉えている。

例えばフェイスブックはもはやスタートアップではないが、多くのマスコミに報道され、世間の注目を集める姿を目にし、スタートアップの創業者はこれがローンチで成功を収めた会社の姿だと考える。

しかしローンチはそれほど特別なものではない。もし自分がやりたい魅力的なローンチのアイデアがあるならば、それは捨て去るべきである。

まず何よりも重要なことは顧客獲得である。シンプルに言うと、ローンチとは顧客を獲得するときを指す。プレスローンチはマスメディアにプロダクトの記事が掲載され、世間の注目を浴びる時のことである。

ここでのゴールはプレスローンチは後回しにし、ローンチをとにかく迅速に行うことである。なぜならプロダクト提供前のユーザーから、彼らの課題を解決できるかは分からないからだ。つまり、ピッチ資料に時間を費やすよりも、顧客に提供できるプロダクトを作り上げることに費やす時間に価値がある。

迅速なMVPのハック術

最後に、MVPを迅速に作り出すハックを紹介する。

1つ目は、スペックをタイムボックス化することだ。ここでスペックとは、ローンチ前に作り上げるべきことのリストである。そしてタイムボックスとは、生産性をあげるために作業期間を固定するやり方である。つまり、ここではローンチ前に作り上げるべきことのリストをタイムボックスにする。

例えば3週間以内にローンチをしたい場合は、3週間で作れる仕様にする。このように、その期間内で作れない機能は省くことで作業がよりシンプルになる。

2つ目はスペックを書き出すことだ。これは単純のように見えて大半の人が失敗する。例えば、創業者が事業に取り組んでみたものの、ユーザーがそれに対して魅力を感じない。あるいは投資家の元へ行き、会社として成功できないと見通される。

こうして創業者は事業内容の変更を決断する。このようにスペックを書き出していない場合、自分がスペックの改良を加えていることに気づかず、当初は3週間の計画が3ヶ月になることがある。そのため、スペックを書き出していれば常に軌道修正を把握することができる。

3つ目はスペックを削ることだ。3週間のタイムボックスのうち、1週間目はスペックに多くのことを盛り込みすぎて、締め切りに間に合わないと感じるかもしれないが、恐れることはない。

その際は明らかに重要ではないスペックを削り、もし重要ではないものがない場合は重要であるものを削る。ここで目指すべきゴールは世に何かを送り出すことだ。それがひとたび出来れば、事業は一気にドライブしていく。ここでもし世に何も送り出さなければ、容易に遅れが生じる。

そして最後は、自社のMVPに満足しすぎないことだ。多くの創業者は自社のビジョンに惚れ込むが、今まで紹介してきたプロダクト例はどれも当初のビジョンから何度も改良を重ねている。MVPは所詮はじめの一歩にすぎない。それは小学1年次に書いた作文に満足しないように、MVPも同等である。

【最後に】

このnoteではスタートアップのMVP構築、戦略、MVPを迅速に作り出すプロセスという観点で、Y Combinatorのパートナーであるマイケル・セイベル氏の講義を元にMVPの構築方法を解説してきた。現在は企業価値300億ドルを超える一流企業も、全てはシンプルなMVPより物語は始まった。プレローンチ段階のスタートアップの使命は、正しい戦略でMVPを作り上げ事業をドライブしていくことである。これを踏まえ、今後世界の発展に貢献していくスタートアップが増えることを願ってやまない。

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